民事信託を行なう前に知っておきたい!民事信託の流れ

民事信託とは、家族などに財産を預けて管理してもらう法律制度の1つです。

現在では、信託は、老人ホームの信託や、遺言信託、不動産管理信託、任意後見における信託など、高齢化する社会において、様々な形で活用されています。

今回は、信託や民事信託とはなにか、民事信託を行うにあたってどのような流れで行うのかについて、ご紹介します。

信託・民事信託とはなにか

「信託」は、財産を有する者(委託者)が、自己または他人(受益者)のために、財産を管理者(受託者)に管理させる制度です(信託法2条)。民法で定められている代理や委任、寄託などと同様に、法律上定められている財産管理の方法の1つとされており、信託法という法律でその内容が定められています。

信託には、2つの大きな特徴があります。

①委託者から受託者に対して、所有権などの財産権を、名義を含めて移転させてしまうこと

②移転された財産を、受益者のために管理処分するという制約を受託者に課すこと

 

つまり、信託とは、自分の財産のコントロールを完全に手放して、受託者に管理してもらうことによって利益を得る制度なのです。

ここでいう利益とは、信託をする委託者のニーズに合わせて、例えば以下のようなものが考えられます。

①信託された財産(信託財産)を安全に維持・保管すること

②信託された財産を利殖や投資のために用いること

③資産を他の人に引き継がせること

信託では、このようなそれぞれの当事者が決めた信託の目的に沿って、財産が管理されることになります(信託法2条1項)。     

 

では、頭に「民事」がつく「民事信託」はどのような制度なのでしょうか?

「民事信託」とは、信託にあたって受託者の営業を目的としない信託のことを指していうことが一般的です。民事信託では、通常、受託者が果たす役割が財産の管理や保全、処分にとどまり、投資信託のような利殖や投資などの目的については含まれません。また、受託者は、委託者の財産のみを個別的に管理します(個別信託)。

これに対して、信託にあたって受託者の営業を目的とする信託のことは「商事信託」などと言われています。

また、民事信託は、受託者が委託者の家族である場合も多く、このような信託は「家族信託」とも呼ばれます。

民事信託の流れ

民事信託では、以下のような流れで手続きを進めます。

民事信託の流れ①:信託の方法・内容を決めよう

前述したように、信託では様々な内容を目的とすることができます。また、財産管理の方法は信託だけではありません。

まずは、自分の財産をどのようにしたいのか、そのためにはどんな方法が適しているのかを検討しましょう。自分の思っている内容を確実に信託として実現するには、専門家などにも相談し、自分の目的にあった信託契約の内容を作成しなければなりません。

また、信託の内容は、他の家族にとっても今後の財産管理の方法に影響を与えるため、事前に家族にその内容について十分に説明しておくことが重要です。専門家を介して、家族会議を行うのも良いでしょう。

 

民事信託の流れ②:信託の内容を公正証書にしよう

こうして信託の内容が定まったら、その内容に沿った信託を成立させましょう。

信託を成立させる方法の1つは、受託者と信託者の間で信託契約を締結することです(信託法3条1号)。

信託契約を成立させるだけであれば、当事者の間で契約を締結すれば足りるため、信託の内容を公正証書にする必要はありません。

しかし、信託契約のなかには、委託者が認知症などによって判断能力が低下したり、亡くなったりした場合にも継続して行われることが予定されているものもあります。そのため、信託契約を締結した後に、その内容についてトラブルになってしまう可能性もあります。

そのようなおそれをできる限り排除するためには、信託契約の内容を公正証書にすることが重要です。

公正証書とは、公証人によって作成する文章です。公正証書に記載された内容は、公証人が真正であることを証明してくれるため、信託契約の内容について紛争が起こることを未然に防ぐことが可能です。トラブルの可能性を極力少なくするために、信託契約を締結する前に、公正証書について司法書士に相談するとよいでしょう。

おわりに

信託制度は、財産を管理する方法の1つで、その財産の名義をすべて受託者に移転させることにより、利益を受けられることに特徴があります。

信託を行うべきかどうかや、信託の内容は、当事者のニーズに合わせて決める必要があります。後のトラブルを防ぐために、信託内容を家族に説明することや、信託契約を公正証書として作成することなどの手段をとることが重要です。その際には、司法書士などの専門家に十分相談しながら、信託をすすめていくとよいでしょう。